「えでぃさんの店」というLiveHouseをやっている関係上、
色々なBeatlesバンドを観る機会があります。
その大半は、いわゆる社会人バンドで、皆さん趣味で
Beatlesをやっておられる人たちです。
えてして、Beatlesファンには“マニア”が多いのですが、
こういった方たちの拘り方には脱帽するものがあります。
「同じ楽器」「同じ衣装」「同じ立ち位置」etc…
いつ観ても「君ら、Beatles好っきゃなぁ~!」と言ってしまう
ほどです。ある意味「自他共に認めるマニア」である俺から
したら、結構羨ましかったりします。
だって昔は、俺もJohnの立ち方とか、Georgeの弾き方を
真似して鏡の前でにやけていた一人ですから。
それほどのマニアなら、彼らと同じようなLiveが楽しいのは
お判りになるでしょう。それにそこまで「物真似」することを
別のマニアが拍手喝采で迎えてくれるのですから。
正直、羨ましいです。^^
よく、俺のスタイルを「Beatlesと違う!」と指摘される方が
おられます。それはその通りで、自分でも似ていないと思うし
似せるつもりもありませんので。とりあえず日本全国のBeatles
バンドのGeorgeプレイヤーで、RickenbackerもGretchも
EpiphoneCasinoも持っていないのは俺ぐらいでしょうね。
だってストラトキャスターが好きなんですもん。^^;
それに身長180cmのGeorgeが持っているGretchを、身長
162cmの俺が持ったらどうなるか?賢明な方には想像でき
ますよね。
(…ギターに持たれているようになるんですよ。^^;)
ぶっちゃけ、今まで色々な場所で、色々な形でBeatlesを演奏
してきました。おかげさまで「プロ」と呼んでいただいております。
で、長年(かれこれ25年かな…)やってきて思ったのが、俺ら
のようにプロでやるには「物真似」で終わってはいけないという
ことです。
曲の度にギターを持ち替えさせてくれるスタッフが常に待機して
いるのであれば、その曲ごとにギターを持ち替えたいぐらいです
が、現実はそうではありません。
我々に求められているのは「部分部分がどれだけ似ているか?」
ではなく、「Showとしてお客さんが楽しめるLiveができるか?」
なんです。
確かにマニアの方にいわせると、俺は「邪道」なんでしょう。でも、
Beatlesだけなんですよ、そこまでマニアがビジュアルに拘るのは。
「マニア」という言葉は、どちらかというとマイナス的なイメージで
捉えられているように、全体の人口から比べれば、圧倒的少数派
だと思います。
言い換えれば「Yesterdayを知っている人が1000人いる」として
そのYesterdayは「●Paulが…●エピフォンのテキサンで…
●チューニングを一音下げて…●ツーフィンガー奏法で弾いてる」
のを知っている人は、一人いるかいないかです。
またよくある「ワンマイク唱法」や上記に挙げた楽器のイメージも
63年~66年の正味4年間のBeatlesのコンサートの数少ない
映像にしか残っていないものです。結成から45年、解散してから
37年にもなるBeatlesのイメージがたった4年間のイメージしか
ないんですよね。なぜならそれ以外ではBeatlesは一般大衆の
前に露出していないからです。
へたをすれば、Paulがサウスポーなのを知らない方も沢山
おられます。
※「超」が付くほどのマニアの方ならご存知でしょうが、Paulの
Hohnerは、当時「一番安い初心者向けの楽器」です。「楽器」
としての完成度からいうとかなり問題がある楽器です。Rickenbacker
にしても当時さほど一流な楽器ではありませんでした。
1962年当時から、楽器として一流だったのはGibsonであり
Fenderだったんです。ただ、それらを使うミュージシャンが
多い中差別化を狙って「あえて珍しい楽器を使った」のもBeatles
のイメージ戦略の勝利でしょう。そのイメージ戦略があまりにも
強かった為に、いまだにそのイメージが定着している感があります。
またさらにマニアの方なら、Georgeが64年にアメリカで
「Rickenbackerを宣伝してくれたお礼としてプレゼントされた
12弦ギター」を使いたいが為に8割方の曲を12弦で演奏してしまった
64年のハリウッドボウルのLive、66年にはGibsonのSGを抱えて
ステージに立った事…など普通に思われているのとは全く違う
ビジュアルが存在する事をご存知ではないでしょうか。
なら、なぜそれほど、その4年間のスタイルに拘るのでしょうか?
なぜGeorgeはGretchでJohnはRickenbackerでないとダメ
なんでしょうか?
答えはズバリ「マニア受け」ですよね。マニアの方は、その数少ない
Beatlesの映像を、それこそ100回、1000回と観ています。
かくいう俺も誰にも負けないぐらい観てきた一人です。
だから、マニアになればなるほど、そうやって擦り込まれた映像と
違うスタイルの俺に違和感を覚えるのでしょうね。
でも、俺ら「プロ」と呼ばれるミュージシャンは「マニア向け」では
なく「一般大衆向け」のLiveをせねばなりません。ですから場合に
よっては、本物と違ったビジュアルになることも、致し方ないのです。
また、Beatlesはあくまでも「音楽家」です。ですから、その「音楽」
を色々な人に伝えるのが俺らの仕事だと思っています。
ということは、「ビジュアル先行で、音楽的なことが後回し」よりは
「ビジュアルを捨ててでも音楽的なことを優先」させるべきです。
だから俺はストラトキャスターを使っています。おそらく今後一生
RickenbackerやGretchを手にする事はないでしょう。
なぜなら、それらを使う事で「演奏に支障をきたし」たり「Showの
進行に支障をきたす」からです。
また、Beatlesは4人ともが演奏者であると同時に,Singerです。
そしてBeatlesの楽曲には、ほぼすべてに「歌」がついています。
以前から、色々な場所で言っていますが、「歌のある曲は、あくまでも
歌がメインであって、楽器はバックに過ぎない」と思っています。
だからといって演奏に手を抜いてもいいということではありません。
「重箱の隅をつつくような完全コピー」には意味が無いと言っている
のです。
よく言われるのが「その部分のGコードは3フレット目じゃなく、7フレット
目やで」とか、「ここはミストーン出してるから、それもコピーせな」とか
丸っきり本物と同じようになるような指摘です。
でも、それって何の意味があるのでしょうか?無茶を承知で言えば、
「歌が上手ければいい」んです。逆に言えば、どれほどコピーに
拘っても「歌が下手」なら、まったく意味が無いんです。あくまでも
「お金をもらっているプロ」としてはね。
最初の方で話した社会人バンドの皆さんには当てはまりません。
だって彼らは「似せる事で楽しみ」「似せようとしている人を観ることで
楽しんで」いるからです。それはそれで趣味として成り立っているし
傍から見ていても楽しいし、これほど完璧な趣味も珍しいのでは
ないでしょうか。
こういったことから、俺は自分のバンドを「Beatlesのコピーバンド」
ではなく、「Beatlesのカバーバンド」だと思っています。
間違って欲しくないのは「完全コピー」が出来ないんではなく、
あえてしていないという事です。ちなみに完全コピーするには
それなりの技術は必要です。その技術を「物真似」にすべて
注ぎ込むよりは、他に使った方が、「Show」としての完成度が
高くなるからです。
まぜ「物真似」より「Showの完成度」が大事かというと、それは
プロミュージシャンの仕事は「マニアだけを納得させるのでは
なく、老若男女すべてのお客さんを楽しませる事」だからです。
ちなみに、マニアとして付け加えるなら、BeatlesはRubberSoul以降
スタジオではストラトキャスターを使っています。NowhereManは
日本公演でGeorgeがCasinoで演奏しているイメージが強いですが、
レコード(CD)の音は紛れもなくFenderのストラトキャスターの音です。
特にGeorgeはFenderがお気に入りだったらしく、Beatles後期から
亡くなるまで、殆どの楽曲をFenderでプレイしています。
(Georgeのプロ期間を40年とすれば、その内の35年ぐらい)
また、俺自身マニアですから「重箱の隅をつつく」コピーもしています。
I saw her standing thereのGeorgeパートを隅から隅まで
完全にコピー出来ているプレイヤーには残念ながら出会った事が
ありません。^^;